人質司法と中世司法。
実に嫌な響きの言葉ですが、これがどちらも日本の司法システムを揶揄する言葉として使われています。
北朝鮮やサウジアラビアのような非民主主義国においては、捜査機関が強権的で国民の人権を無視した内容になることは容易に想像できます。
ところが、先進国の中核であるG7の一員で、平和国家の代表と見られている日本において、上記のような独裁国家と大して変わらない捜査・司法制度が運用されているのです。
人質司法について調べているうちに、検察庁という組織の恐ろしい実態が浮かび上がってきました。
人質司法・中世司法の原因
人質司法とは、捜査機関が身柄を拘束した人間に対して警察や検察が解放して欲しければ、罪を認めろと圧力をかけることです。
その人間が本当に犯罪者の疑いが濃厚であれば、厳しく尋問するのは当然のことです。
しかし、問題になっているのは大した証拠がない被疑者に対して、捜査機関が人権無視で拘束して、都合の良い自白調書を作ろうとするケースです。
身に覚えのない罪であろうと、捜査機関が用意した自白調書にサインしさえすれば、早期に解放されることが多いのです。
逆にサインを拒み続ける限り、勾留は数か月~年単位で続いてしまう。
これが人質司法と呼ばれる所以です。
民主主義国家であるはずの日本で人質司法・中世司法がなぜ起きるのかは下記のような原因が考えられます。
密室での取り調べは、捜査機関側の拷問や恫喝などの人権侵害で、捏造自白調書が作られる危険性が常に存在します。
欧米先進国では、取り調べの場面に弁護士が立ち会うことができるので、この危険を抑止することができます。
しかし、日本では捜査機関が聴取の邪魔になるからダメだと言えば弁護士の立ち会いはできなくなります。
密室取り調べにおける捜査機関の暴走を防ぐもう一つの手段として、取り調べの映像をビデオで残す可視化という方法があります。
2019年の7月に可視化の法案が成立しましたが、これも捜査機関側が必要ないと判断すれば実行する義務はありません。
これまでの検察・警察の態度から見て、都合の悪い部分は当然ビデオに残すはずはないので、今回の可視化法案は何の解決にもなっていないことになります。
逮捕された場合、拘置所か留置所で拘留されることになりますが、その期限は合計で23日までと法律で定められています。
しかし、被疑者が容疑を否認する限り、その期日で解放されるケースは非常に少ないのです。
現状では、捜査機関が裁判所に勾留延長の必要ありと申請すれば、ほとんどは認められてしまいます。
その制度を盾にとって被疑者に対して罪を認めない限り、絶対に解放しないと恫喝してくることが常態化しているのです。
特に窃盗や痴漢などの軽微な犯罪の場合、罪を認めさえすれば、必要以上の勾留はされず、略式起訴の罰金のみで済みます。
捜査機関は、罪を否認する人間に対して、そのルールを持ち出して
「なんで罪を認めないんだ。面倒くさい奴だな」
「認めなければ一生ここから出られないぞ。この調書にサインするだけでいいんだよ」
などと、もはや事件の真相はどうでもいい態度でやってくるわけです。
冤罪を受けた当事者からすれば、誠意を持って話せばわかってもらえると思っていても、取調官の方はまったく聞く耳がありません。
すっかり絶望して、身に覚えのない罪が書かれた調書にサインしてしまうことになります。
日本の捜査機関の取り調べ室はまるで独裁国家のような人権侵害が当たり前の世界なのです。
捜査機関が被疑者の逮捕や勾留を延長をする場合、裁判所がその手続きが適切かどうか判断する役割を負っています。
しかし、現実として裁判所は検察の手続きをほぼノーチェックで通してしまうことが常態化しています。
そのため、罪を否認する限り勾留が延長され、裁判が始まるまで勾留が続くケースが多いのです。
ライブドア事件のホリエモンは94日、森友学園の籠池夫妻は300日拘置所で勾留されました。
検察や警察は理不尽だったけど、裁判所なら自分の言うことを聞いてくれると思ったら大間違いです。
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%に上り、どんなに証拠が乏しい事件だったとしても、裁判所は検察側の主張に寄り添った判決にしてしまいます。
だから、人質司法を使われたとしても、いったん自白してしまえば、裁判ではそれがそのまま証拠採用され、そのまま有罪となってしまうわけです。
また、仮に裁判で捜査機関の人質司法による自白強要が明らかになったとしても、裁判所の方は「強要したのはよくないけど、証拠として否定できないわけではない」
などと、どこまでも捜査機関の代弁者のような不可思議な理屈で正当化してしまうので、まず有罪からは逃れられないことになります。
検察庁は法務省と裁判所を支配している
私たちは日本が平和な民主主義国だと思って生活を送っています。
しかし、いったん逮捕されて被疑者の立場になると、まるで独裁国家に迷い込んだような扱いになってしまうのです。
その元凶は検察庁という組織にあります。
検察庁は表向きは法務省の下部に位置する機関ということになっています。
ところが実態としては全く逆で検察庁が法務省を支配するという奇怪な構造になっているのです。
普通、中央省庁の事務トップのポストは事務次官です。
しかし、法務省の実質上の事務トップは検事総長なのです。
その次に来るのが全国に8ヶ所ある高等検察庁の検事長です。
法務省の事務次官はその下に来るので10番目の序列ということになります。
さらに、法務省幹部の7割は検察官で、検察官でないキャリア官僚は課長以上には出世できません。
そして法務省幹部の残りの3割を裁判所の判事が占めます。
法務省の検察官や判事は法務の行政でキャリアを積み、また検察庁や裁判所に戻ったりします。
自分で書いていて、頭がおかしくなりそうですが、これが実際に行われている現実のシステムです。
検察官の基本業務は、容疑者とされる国民を有罪にすることです。
そのような立場の人間が、国民の一般的な生活に関わる法務行政を行っていることになります。
まるで、国民の生活全般が検察官に支配されているみたいで、気持ちが悪いです。
さらに、検察官とは独立した立場であるべき裁判官が、検察官といっしょに法務行政の業務をしているというのも……。
検察庁と裁判所は判検交流という制度で癒着しているのは有名ですが、それ以外にも癒着する制度が歴然と存在していることになります。
人質司法が捜査機関の日常業務になるのは、当然の成り行きと言えるでしょう。
私が更に恐ろしいなと思ったのは、この奇怪な仕組みがマスメディアを通して一切報道されていないことです。
検察庁は絶大な権力を使って記者クラブに属するマスコミをコントロールして、都合の悪い内情が絶対に国民に伝わらないようにしていると考えられます。
世界中から非難されている人質司法
国際人権規約の自由権規約第14条には推定無罪の原則を遵守するというルールがあります。
日本政府は自由権規約を批准しているにもかかわらず第14条に真っ向から違反し続けているのです。
海外の人々から見れば、日本の人質司法の問題は自分たちの生活にはほとんど関わりのないことなので、ほとんど知られていないというのが現状です。
日本政府は人質司法と中世司法を一向に改めようとしないので、国連などの国際会議の場で、諸外国から非難され続けています。
驚くのがその非難に対する日本政府の態度です。
下記は2013年に行われた国連拷問禁止委員会での出来事です。
国連拷問禁止委員会にて
アフリカ・モーリシャス委員「日本の被疑者取調べに弁護士人の立ち合いがない」「有罪率が高い日本の刑事司法は中世レベル」と非難
上田秀明人権人道大使「日本は世界一の人権先進国だ」
(会場から失笑)
上田大使「なぜ笑う。笑うな。シャラップ!シャラップ!」#ゴーン pic.twitter.com/cRYX0YP81P— ボーダーレス放浪者@マレーシア移住希望 (@catleyser) 2019年4月26日
この動画の日本代表は、「シャラップ上田」としてネット上でも有名になっています。
人権人道大使という肩書きの人がこれだけ傲慢な態度を取れるということが驚きですが
何よりも人権を議論する国際的な場所に、このような人物を送り込む行為自体が、日本政府の態度を象徴しています。
人権関連の会議での日本政府代表は、木で鼻をくくったような態度に終始することが多く、国際的な評判はとても悪いです。
また、例によって、日本の記者クラブマスコミは、国際的な場での日本政府の傍若無人ぶりをほとんど報道しません。
日本国民が知らないうちに、日本は人権後進国だという見方が国際常識になってしまう恐れがあります。
人質司法は日本の国益を損ねている
自由権規約などの国際条約には直接的には罰則がないことがほとんどです。
それをいいことに、日本政府は繰り返し是正勧告を受けても、不誠実な態度を取り続けていることになります。
民主主義をとる国では、国際条約の是正勧告にはなるべく従うことが国益にかなうと考えて努力するのが普通ですが、日本政府の態度は非民主主義国家そのものです。
日本政府は海外から人質司法を批判されるたびに、内政干渉は余計なお世話というレベルのコメントしていますが、この態度を続けることで、すでに国益は大きく損なわれ、日本国民はその被害を受けているのです。
米軍基地がある国では、米兵が公務外で起こした犯罪についてはその国に犯罪者の身柄を引き渡すのが普通です。
しかし、日本では米軍が先にその米兵を拘束した場合、捜査機関は手出しができないことになっています。
そのため、犯罪を犯した米兵は基地内に逃げてしまい、米国での裁判を受けて軽い罪で済んでしまうことが社会問題となっています。
このような不平等な地位協定が改訂できないのは、日本の人質司法が原因だと言われています。
犯罪者が第三国に逃亡した場合、捜査機関は逃亡先の国に犯人の引き渡しを要求することがありますが、その手続きをスムーズに行うために、2国間で「犯罪者引き渡し条約」を締結します。
2019年現在、日本がこの条約を締結しているのは、何とたったの2か国(アメリカと韓国)なのです。
フランスは96か国、イギリスは115か国、アメリカは69か国、韓国でさえ25か国と締結しているのにかかわらず。
これは、日本の人質司法・中世司法の影響で、相手国から締結を拒否されていることが原因だと考えられます。
日本人自体のイメージは良いのに日本政府が・・・
海外において日本人はお金持ちでマナーがよいというイメージが強くて、好感度も高いようです。
しかし、実際に外交をおこなっている日本政府の役人のマナーはけっしてよいものではなく、人質司法や死刑問題でも(日本は民主主義国での数少ない死刑の存置国)でも、言い逃れを続けているのが現状です。
そして、国際的な交渉の場で、日本政府にマイナスイメージを持った人々が増えることは、日本の国益を損ねる方向に働くのは明らかでしょう。
捕鯨問題での国際司法裁判所の敗訴、または、日本の海産物の輸出に関するWTOでの敗訴は、日本政府の長年の不誠実な振る舞いがボディーブローのように効いてきた気がしてならないのです。
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